今回は、VRIO分析について解説します。読み方は、「ブリオ」分析と読みます。
有効な戦略を作るベースの経営資源を考えることの出来るフレームワークになるので、戦略立案上の存在意義から、具体的な使い方を事例を踏まえながらご紹介していきます。
VRIO分析とは?
VRIO分析とは、企業・事業における競争優位の元となる内部リソース=経営資源(ケイパビリティ)のうち、何が強みになりうるか評価するためのフレームワークです。
一般的に企業には人的資源や技術資源、組織文化など、様々な経営資源(ケイパビリティ)を持っています。
VRIO分析ではこうした経営資源を、「Value(経済的な価値)」、「Rarity(希少性)」、「Imitability(模倣困難性)」、「Organization(組織)」と言う4つの観点から評価していきます。
自社の持つ経営資源(ケイパビリティ)のうち、強みが何で、何が弱みになっているのかを分析する際に使用するフレームワークです。
VRIO分析の戦略策定上の立ち位置
各種のフレームワークは、企業・事業が競争優位を築くためにどのような戦略を取るべきかを意思決定するために使用します。大きな流れは、「ビジョン・理念の策定」→「環境分析」→「事業ドメインの設定」→「戦略策定」→「仕組み構築・実行」になります。
フレームワーク一覧
戦略策定の流れの中において、環境分析・事業領域設定・戦略策定の3つの目的でフレームワークは使用されます。目的ごとのフレームワークは以下の通りです。
①環境分析
- PEST分析
- VRIO分析
- 5Force分析
- SWOT分析
- 3C分析
- バリューチェーン
②事業領域設定
- マーケティング近視眼
- STP分析
- CFT
- ペルソナ分析
③戦略策定
- 3つの基本戦略
- ビジネススクリーン
- 競争地位戦略
- リーンキャンバス
- 成長ベクトル
- カスタマージャーニー
- PPM
- AIDMA
- AISAS
- コアコンピタンス
- 7つのS
- プロダクトライフサイクル
- VSPRO
- ムーアの法則
- 4P
- イノベーター理論
VRIO分析は、こうしたフレームワークの立ち位置の中の、環境分析、特に内部分析のために使用します。
4つの観点をどのように評価するのか?
詳細は後述しますが、こちらの表のような形で、
基本的には各種経営資源をV(value)→R(rarity)→I(Imitability)→O(Organization)の順番に評価していく形です。
こうして順に見ていくことで、その経営資源が
- 弱み
- 強み
- 強みであり固有のコアコンピタンス
- 強みであり持続可能なコアコンピタンス
のどれに当てはまるかを評価することができます。
VRIOの目的、メリット
VRIO分析の目的は経営戦略上、自社の持つ経営資源(ケイパビリティ)のうち、何が強みとなりうるのかを選定するために使用します。
また、私自身もVRIO分析を使用して戦略の核となる資源を洗い出すために使用しますが、VRIO分析を使用するメリットは、完全に型化が出来、YES・NOと答えていくだけで評価が出来るため、使用自体の難易度が低い=基本的には誰が行っても大きく外れた結果にはならないと言うことです。
他のフレームワークは、分け方の解説はあるものの、それぞれの中に何を入れて考えたら良いのかわからないことがあるかと思いますが、VRIO分析については何を入れたら良いのかわからないと言うことがありません。
VRIOの4つの要素
次にVRIOの4つの要素、つまり強みを構成する「Value(経済的な価値)」、「Rarity(希少性)」、「Imitability(模倣困難性)」、「Organization(組織)」について詳しく見ていきましょう。
Value(経済的な価値)
企業または事業に経済的な価値かどうかを判断するための評価項目になります。経済的な価値とは言うものの、字の如くの金銭的なリソースを指すわけではありません。
人的資源や固定資産など、様々なケイパビリティが対象になります。評価の視点としては、
「外部環境における脅威や機会に適応することで、市場競争で優位を築くことが出来る」
で、この基準を満たすこと=経済的価値をもたらすため、経済的価値があると判断します。
Rarity(希少性)
希少性については、valu(価値)と少し似ています。Rarity(希少性)については市場においてそのケイパビリティがどれくらいの希少度かを評価するものです。
「そのケイパビリティを持っていない場合と比較して、持っている場合は価値を生み出す」
上記を満たすケイパビリティを持っている場合、市場で優位に立てる可能性が高い=価値のあるケイパビリティと判断することができます。
Imitability(模倣困難性)
模倣困難性については、市場においてそのケイパビリティが真似をしやすいのか、簡単には模倣できないのかを評価するものです。
「そのケイパビリティを有さない企業はその獲得に祭して保有企業に対してコスト上不利になる」
つまり、簡単に模倣されているケイパビリティについては、すぐに競争優位性を失ってしまうため、価値を持ちません。
模倣困難なケイパビリティもまた価値を持ちますが、模倣時にコスト不利をもたらす要因は4つあるとされています。これらの要因を持つケイパビリティかどうかが重要になります。
歴史的要因
歴史的要因とは、以下2つ理論に起因する要因です。
- 時間圧縮の不経済
- 経路依存性
時間圧縮の不敬罪とは、いつどこにいたかに起因するもので、例えば過去に相場が安い時に購入したが現在は価値が高騰している不動産などが挙げられます。
経路依存性とは、ケイパビリティのための価値が元々低かったと言うものです。
因果関係が不明な要因
因果関係が不明な要因とは少し難しいですが、模倣対象のケイパビリティと競争優位の因果関係が不明な場合を指します。
社会的複雑性要因
社会的複雑性とは、そのケイパビリティが社会的に複雑であることですd例えば自社の評判などは、特定の理由から成り立っていると説明することが難しく、社会的に複雑であるといえます。
特許の要因
最後は特許の要因です。特許はそのまま理解できるかと思います。特許自体は取得されてしまえば基本的には模倣困難です。
Organization(組織)
組織については、これまで見てきた経済的価値、希少性、模倣困難性を持つケイパビリティを適切に活かすことの出来る組織であるか、と言う観点です。例えば組織構成や報酬体系などが挙げられます。
「戦略的ポテンシャルをフルに発揮出来るように組織されている」
であれば、組織としては競争優位を生み出すための組織であると言えるのです。
VRIOのより理解するために必要な前提知識
VRIOのフレームワークが作られた歴史的背景について触れておきましょう。
詳細な説明はここでは省きますが、企業戦略の権威であるJ・B・バーニー氏の著書である「企業戦略論【上】基本編 競争優位の構築と持続 」にて、VRIOとも合わせて詳しく述べられていますので、興味ある方はご覧ください。
「企業戦略論【上】基本編 競争優位の構築と持続」についてはこちらにて要約をまとめています。
リソースベーストビューという企業観
企業の内部分析については過去いくつか潮流があります。
企業固有能力に関する伝統的研究
企業の価値とは、以下の2つの要因によって決まるものであるとする考え方です。
- 経営者(戦略決定者)
- 組織リーダー(ミッションや目的を想像し、その体制や組織作りをする人)
リカード経済学
「供給が非弾力的な経営資源の保有(土地など)」こそが競争優位を生み出す源泉であるいう考え方です。
企業成長の理論
企業とは、以下の2つの観点を最大化すると競争優位を得ることができるとする考え方です。つまり組織ですね。
- 生産資源の束
- 個人やグループの行動をリンク、調整する管理のフレームワーク
「リソースベースビュー」と言うのは、これら3つ考え方・潮流を統合して生まれたものです。
そして、リソースベースビューに基づいた内部分析のフレームワークがVRIO分析なのです。
VRIOは環境分析の中の内部分析、つまり外部分析も必要になる
VRIO分析の詳細について見てきましたが、上記で述べたようにVRIO分析はあくまでも内部分析に使用するフレームークです。
そしてそもそも企業分析とは外部分析と合わせた環境分析のことを指します。例えば有名なフレームワークに5Forces分析と言うフレームワークがあります。
これは業界の魅力を測るためのフレームワークで、企業内部の話ではないのです。これも有用なフレームワークですが、先ほど述べたように分析に関しては外部分析と内部分析の両方の観点から環境分析することが重要です。
なので、VRIO分析をして終わりではなく、それを活かす業界が適切かどうかの視点を持つことも忘れないようにしましょう。
経営資源とは
これまで何度かケイパビリティという言葉が出てきましたが、具体的にケイパビリティとはなんなのでしょうか?
ケイパビリティ=つまり経営資源とは、以下の4つの種類に分類されます。
- 財務資本
- 物的資本(物理的技術、設備、立地など)
- 人的資本(人材育成訓練、マネジャーや従業員の経験・知識など)
- 組織資本(個人の集合体で管理、調整のシステム、自社と他社との関係性など)
先ほどのリソースベーストビューの中身に通ずることが分かりますでしょうか?
具体的なVRIOの使用方法は後述しますが、自社のケイパビリティを洗い出す際には上記の4種類を参考にしてみてください。
VRIO分析の具体的な使い方
それではVRIO分析の具体的な使い方について見ていきましょう。
VRIO分析を行う流れは以下の通りです。
- バリューチェーン分析を行い競争優位になるケイパビリティを明らかにする
- VRIOの4つにケイパビリティを当てはめる
- それぞれの分析結果を評価して、ネクストアクションに繋げる
VRIO分析はバリューチェーン分析をした上で行う
まず初めに、マッキンゼーやポーターが生み出したバリューチェーン分析という分析を行う必要があります。これは網羅的に自社のケイパビリティを洗い出すために使用するフレームワークです。
簡単にいうと、「自社がサービスを顧客に提供するまでの価値の流れを図式化したもの」です。サービスを提供するまでにどのような活動があるのかを洗い出すことで、自社の保有ケイパビリティを考えることができます。
バリューチェーン分析の事例
では実際に私がバリューチェーン分析を行った事例をご紹介します。
SaaS系プロダクトを提供している企業の分析を行いました。
開発があり、マーケティングや営業活動など、右側に行くに連れて価値が形成されていきます。アフターサービスがある点もSaaSプロダクトの特徴でしょうか。こうした流れをそれぞれのビジネスに基づいて作成します。
VRIOの4つの要素にケイパビリティを当てはめる
バリューチェーン分析を行い洗い出したケイパビリティについて、VRIOの4要素の質問に答えていきます。
それぞれの質問項目は以下の通りです。
Value(経済的な価値)に対する質問項目
valueについての質問項目は、「そのケイパビリティは外部環境における脅威や機会に適応することを可能にするか」です。
Rarity(希少性)に対する質問項目
rarityについての質問項目は、「そのケイパビリティは持っていない場合と比較して価値を生み出す」です。
Imitability(模倣困難性)に対する質問項目
Imitabilityについての質問は、「そのケイパビリティを有さない企業はその獲得に祭して保有企業に対してコスト上不利かどうか」です。
Organization(組織)に対する質問項目
Organizationについての質問は、「ケイパビリティが戦略的ポテンシャルをフルに発揮出来るように組織されているか」です。
VRIOの分析結果を評価して、ネクストアクションに繋げる
各ケイパビリティについてそれぞれの質問に答えていき、それぞれが強みかどうかを判断します。
強みか弱みかの判断表は以下の通りです。
この表に則り、強み弱みを判断します。強み弱みのそれぞれの詳細については以下の通りです。
弱み
弱みとはつまり「競争劣位(経済価値を生み出していない)」であるということです。
強み
強みとはつまり、「競争優位(経済価値を生み出しつつ競合が同じ行動をしていない)」であるということです。
強みであり、固有のコアコンピタンス
強みであり、固有のコアコンピタンスとはつまり、「競争優位(経済価値を生み出しつつ競合が同じ行動をしていない)」でありつつ、そのケイパリビリティが他社が持たない強いケイパビリティであるということです。
強みであり、持続可能な固有のコアコンピタンス
強みであり、持続可能な固有のコアコンピタンスとはつまり、「競争優位(経済価値を生み出しつつ競合が同じ行動をしていない)」でありつつ、そのケイパリビリティが他社が持たない強いケイパビリティであり、その状態が長期的に有効な状態ということです。
上記の結果に基づいて、ケイパビリティを判断したのち、戦略の決定に繋げていきます。
実際にVRIOフレームワークを使用した分析事例
最後に私が実際にVRIO分析を行った事例をご紹介します。先ほどのバリューチェーンから洗い出したケイパビリティを元に、それぞれの評価を行っています。
VRIO分析のテンプレート
上記分析を行った元となるテンプレートを添付いたしますので、分析される際は参考にしていただけますと幸いです。
事業会社・広告代理店両方で経験を積んだスキルを活かして広告運用の受託事業も行っております。
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