今や知らない人はいないほど浸透したDtoCですが、その変遷や概要などが網羅された「D2C「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略」を読みましたので要約とレビューを紹介していきます!
D2C「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略の要約
D2Cの定義は以下の通り。
新しい消費の価値観を持つミレニアル世代以下のターゲットに対し、ユニークな世界観を下敷きにしたプロダクトとカスタマーエクスペリエンス、SNSや店舗を通じた顧客とのダイレクトな対話、垂直統合したサプライチェーンを武器に、VCから資金調達を行い、短期間に急成長を目指すデジタル&データドリブンなライフスタイルブランド
元々、小売業界は以下の理由から投資対象となっていなかった。
- インターネット企業と比較してイニシャルコストが高い
- 従業員数十人でユーザー数数千万人といった指数関数的成長が難しい
- D2C繁栄の背景(日本とアメリカの違い)
日本とアメリカの市場背景の違い
アメリカ=>リーマンショックで打撃を受け、ミレニアル世代の資産はかなり少ないため、安価なD2Cブランドは大きな訴求となっている。
日本=>長らく続くデフレの影響で、ユニクロや無印といった安くて良いものに溢れている。
つまり、アメリカのD2Cブランドとは異なる価格戦略・ブランディングが必要。
具体的な留意点は、日本ではアメリカのD2Cブランドが提供しているものよりもはるかに安価で高品質なものが手に入る市場環境であるということと、EC化率が低い要因ともなっているがコンビニ等の流通網が整備されているため、ECと近場に行く手間は大差がない。
これを踏まえると高価格帯へのシフトが1つの重要な考え方になる考え方になる。
D2Cと伝統的なブランドとの違い
項目 | D2Cブランド | 伝統的なブランド |
---|---|---|
出発点 | デジタルネイティブ ・具体的なテクノロジーの活用方法店舗の設置=>自社ブランド名が検索されたロケーションに基づく材料の発注や製造=>独自ソフトウェアによる需要予測に基づく接客=>オンラインでデータが取れているためオフラインでもパーソナライズされた提案が可能 | メーカーとして誕生 |
チャネル | 独自チャネルにて直接販売、直接コミュニケーション ・D2Cの本質直接顧客と接点を持てることにより、顧客とダイレクトに対話すること(N1分析)によりライフスタイルに対してのアイデアが生まれる世界観も毀損せずに伝えられる顧客データを引き継げるため顧客体験も最適化される | 小売経由で間接販売、広告代理店経由で間接コミュニケーション |
価格帯 | 安価 | 中間コスト込みのため高い |
成長速度 | 指数関数的成長(インターネット企業の特徴)ネット企業と同じく、例えばメール配信時間など細かくABテストなどKPIを決めながら改善していくことができる | 堅実な成長 |
提供価値 | ライフスタイル(世界観) | プロダクト(機能) |
ターゲット | ミレニアル世代以下 | X世代以上 |
顧客の位置付け | コミュニティであり仲間(顧客でありマーケティング担当者でもある、具体的には口コミを産んでもくれるし、製品に対してのフィードバックからR&Dにも参加させる) | お客様 |
その他 | データ分析などテクノロジーを活用(データに基づく意思決定)プロモーションはSNSがメイン | プロモーションは広告がメイン |
D2Cと伝統的なブランドの世界観の比較
項目 | D2Cブランド | 伝統的なブランド |
---|---|---|
世界観の作り方 | コアバリューのコンテナ(創業ストーリーや実現したいライフスタイルなどのエピソードや文脈) | プロモーション(イメージは1枚の画像やキャッチコピー) |
表現の手段 | 本何冊分ものストーリー(書籍、雑誌、ポッドキャスト) | 数種類のイメージ(広告) |
語るレイヤー | ブランド | プロダクト |
認知の方法 | 語りかけ-理解モデル | 刺激-反応モデル |
訴求する価値 | 倫理的価値 | 高級感・機能性 |
対象世代 | ミレニアル世代以下 | X世代以上 |
作り手 | ブランドとユーザーの共創 | ブランド |
ミレニアル世代の価値観
所有物ではなく行動こそが自分を表現する、つまり「何を持っているか」ではなく「何をしているか」、「どういうものに興味を持って活動しているか」が重要。
ブランドというよりは、社会・倫理・正義といった観点に深く反応する。
より深いレベルでブランドと関係性を構築しようとしており、製品そのものの良さというよりは、「誰が作ったか」「どう作られているか」「どういう大義のもとに作られているか」「どう自分の生活を変えていくか」などが重要。
上記のために、ブランドがやらなければならないことは2つ
①長尺コンテンツの作成
情報量が多く、没入的なコンテンツが必要で、だからこそポッドキャストや雑誌が重宝されている
②コンテンツの継続的な発信
顧客との関係が超長期化する中で、さまざまな手法で継続的にメッセージのやりとり(例えばWarby Parkerでは商品の到着や返送などにおいて合計9回もメールが届く)
D2Cのビジネスドライバー
世界観が重要になってくるため、多くのD2Cブランドは創業時から元雑誌編集者などをコンテンツディレクターやストーリーテリング担当として置いている。
こうした人材が顧客との新しい関係作りのドライバーになっている。
D2Cと伝統的ブランドの戦略の違い
従来は買い切り型のマーケティングファネルを活用していたが、D2Cではリレーションを重視するため、指標としては長期的な接点を持ちながらのLTVがよく使われる。

ただしメールを何度も送りつけるなどLTV自体を目的とするのはダメで、目的にすべきは顧客から愛されているか、好かれているかという信頼や共感、愛着などの感性的価値。
適用すべきマーケティングのフレームワーク
4Pから4Eへの進化。
product→experience
プロダクトと同時に、そのプロダクトを通じてどのような体験を提供するか。
price→exchange
売り切りの値付けではなく、サブスクリプション、つまり所有と使用の境目が曖昧となっている前提で考える。
promotion→evangelism
コピーライトなどを磨くだけでなく、顧客に何を語りどのような写真を撮ってもらい、そのためにどうするべきか考える。
place→everyplace
OMO(online merge offline)を意識し、接点をどこでも持つ。
オフラインで接点を持つと体験の粘着性が全く違い、中にはLTVが3.5倍だった例もある。
D2Cのビジネスモデル3類型
①売り切り型
コストを掛けて集客し、それを上回る粗利を乗せて販売。
次に商品を買うのは数年後になるため、必然的に取るべき戦略は商品ラインナップの拡充に向かっていく。
例えばマットレスを販売するブランドでは睡眠体験を提供していることもあり、寝室のポータブルランプを拡充。
②サブスク型
FMCG系はこれを取ることが多い。
③SaaS×box型
家庭用エクササイズバイクなど。
VCが投資するD2Cの条件
- 差別化され、粗利が高い商品を提供
- ゼロサム市場(1人が複数のブランドを使い分けない)
- 既存プレイヤーが小売りのみで、顧客と接点を持っていない
- 既存プレイヤーがマス広告に依存している
- 使用データが獲得でき、機械学習などでデータ分析の精度を上げることができるプロダクト
いわゆるシリコンバレー系のスタートアップの高度なエンジニアリングは必要とせず、総合格闘技と言える様々なスキルが必要になり、オペレーション構築やサプライチェーンマネジメントなど伝統的メーカーのスキルセットも重要になる。
つまりカリスマ主導型ではなく、適切なチームが重要になる。
D2Cで使われるデフォルトツール
デフォルトツールはAWSとshopify。
D2C「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略のレビュー
本文内でも出てきたがコトラーも同じことを言っていて、D2Cに限らずあらゆる業界で本書で書かれていることが重要になると感じる。

テクノロジーの活用は当たり前として、例えば共創やOMOなども巷では良く耳にするが、実践出来ている企業はまだ少ないと思うが、SNSが発達した消費者心理としては共感マーケティングやカスタマージャーニーの変化はほぼ全ての業界に通ずるのではないか。
ただブランディングなどの定性的な価値というは定量化することが難しいが、指標の作り方は顧客起点マーケティングなどが参考になるので、組み合わせて考えるとレベルの高いマーケティングが行えると思います。

ちなみに、世界観を伝えていく上でブランディング自体が重要ですが、ブランディングを学ぶにはこちらの本がおすすめです。
