今日は、webマーケティングにおいて習得が必須である概念、「パーチェスファネル(マーケティングファネル)」について解説します。
パーチェスファネルを理解すればユーザーの消費行動を分析し、効果的なマーケティング施策を打てるようになります。パーチェスファネルの活用方法や事例を、図解しながら説明していきます。
パーチェスファネルとは
パーチェスファネルはそれぞれ単語に分けて翻訳すると、
- 「パーチェス(purchase)」=「購買、購入」
- 「ファネル(funnel)」=「漏斗(ろうと、じょうご)」
となります。つまり、ユーザーの購買行動が、商品の認知から購入に進むまでの間に人数が減っていき絞り込まれている様が逆三角形の漏斗のような形をしていることからマーケティングファネルと呼ばれています。
そしてユーザーの購買行動は、サミュエル・ローランドホールによって提唱された「AIDMA(アイドマ)」と言う、心理プロセスをモデル化したフレームワークを発展させたものです。
「Attention(商品やサービスの注意を引き認知)」→「Intereset(興味を持つ)」→「Desire(欲しいと思う)」→「Memory(記憶する)」→「Action(購入する)」と言う一連の流れから発展させ、
「認知」、「興味・関心」、「比較・検討」、「購入」と言う4つの流れを漏斗上に図式化したものがパーチェスファネルです。
AIDMA(アイドマ)モデルとは
AIDMAモデルとは商品やサービスを購買するまでの顧客心理を表しており、前述した通り以下の流れに沿うとされています。
- Attention(商品やサービスの注意を引き認知)
- Intereset(興味を持つ)
- Desire(欲しいと思う)
- Memory(記憶する)
- Action(購入する)
この頭文字を取って、AIDMAと呼ばれています。
このモデルを自分に当てはめていただくと、段階的に人数が減っていくイメージが湧きますでしょうか?
例えば吸引力の衰えない掃除機と言われて頭に浮かぶ商品があると思います。マーケティングがかなりうまい会社のため、多くの人が知っている=認知している状態ですが、比較検討や購入に全員が至るわけではありません。
100人が認知したとしても、興味・関心を持つのは50人かもしれませんし、比較・検討段階に進むのは20人で、そのうち購入するのは5人かもしれません。このように、漏斗上にどんどんとユーザーが絞られていくのです。
パーチェスファネルはこの絞られていく過程をよりわかりやすく図式化したもので、認知から始まる集客した見込み顧客が、どの段階でどれくらい離脱してしまっているのか、各段階はどのようにアプローチするのかというマーケティング施策を考えることに役立つのです。
ちなみにAIDMAなどの購買モデルは近年AISAS(アイサス)など現代に合わせた複数のモデルが提唱されていますが、こちらは別記事にて紹介いたします。
マーケティングファネルの中のパーチェスファネル
ちなみに厳密に言うと「マーケティングファネル」というファネルの種類がいくつかあり、その中の一つが「パーチェスファネル」です。パーチェスファネルが最も古典的な考え方のため最も浸透していますが、そのほかのマーケティングファネルについても後述で紹介します。
パーチェスファネルを使用するメリットと目的
パーチェスファネルを使用するメリット・目的は大きく以下の2つです。
ファネル分析(見込み顧客がどの段階で離脱したのか分析)ができる
まず、ファネル分析ができることが挙げられます。(詳細なファネル分析の方法、事例は後述)
ファネル分析とはつまり、リードが購入までの間のどこの段階で離脱しているのか、ボトルネックになっているのかを分析することです。
例えばもっと購入数を増やすために、ファネル分析をしない場合は、「とにかくもっと広告を打とう!」という意思決定をするかもしれませんが、仮に「比較・検討段階」例えば検索はかなりされていてLPへの流入は多いのに購入がされていない、つまり「比較・検討」フェーズにボトルネックがあるのではないかと考えることができます。
その結果、LPの課題点を見にいき、「EFO施策をしよう!」などの正しい意思決定ができるようになります。
ファネルのそれぞれの段階ごとに施策が打てる
パーチェスファネルを使用してファネル分析を行うとボトルネックが把握できるようになりますし、ユーザーを段階ごとに分けて考えれらるようになります。
例えば、「ユーザーはとにかく安い価格の訴求をすれば売れるだろう!」と、価格訴求をした広告を全てのユーザーに打つよりも、「認知段階では価格訴求をして、比較検討段階では商品の質について理解してもらえる訴求をしよう」といった形で、段階ごとに分けて考えることができるようになります。
パーチェスファネルを使用したファネル分析のやり方
それでは、具体的なパーチェスファネル(マーケティングファネル)を使用したファネル分析の方法についてご紹介します。
ファネル分析は、webマーケターの仕事の核心と言っても過言では無いくらい重要ですので、マスターが必須です。
ユーザー分析(ペルソナ設定)
まず初めに、ペルソナの設計を行います。
ペルソナとは、商品・サービスを購入する典型的なユーザー像のことです。1人の人物がイメージ出来るほど詳細に様々な項目を検討します。
ペルソナ作成の目的は、より具体的な分析・施策を検討出来るようにするためです。例えば「20代 主婦」よりも、「港区に住む子持ちの27歳主婦」とした方が、どういった傾向を持っているか、どのようなものが好きそうかがイメージ出来るかと思います。
データが少ない場合はある程度想像の範疇で作成することになりますが、なるべく事実・データに基づいて設計する必要があります。既存顧客の情報やインタビュー、調査データなどを参考に作成します。
具体的には以下の4つの項目を分析します。
- ジオグラフィック変数(地理的変数)
国、地域、人口密度、都市化の進展度、気候、文化、宗教、政策などの要素
- デモグラフィック変数(人口動態変数)
年齢、性別、国籍、職業、所得水準、学歴、家族構成などの要素
- 行動変数
購買状況、購買プロセス、使用頻度、購買メリット、購買態度などの要素
- サイコグラフィック変数(心理変数)
ライフスタイル、社会的階層、価値観、購買動機、性格、好みなどの要素
実際のペルソナ作成例
実際に私が過去に作成したペルソナ像をご紹介します。
項目 | 詳細 |
---|---|
名前 | 山田太郎 |
年齢 | 30歳 |
業種 | IT |
勤務先所在地 | 東京都港区 |
年商 | 15億 |
従業員数 | 100人 |
役職 | 一般社員 |
業務内容 | ウェブ担当 |
業務上のゴール | ウェブを活用した売り上げの最大化 |
年収 | 450万 |
購買プロセス上の役割 | 最終意思決定者 |
決裁権 | 有り |
情報収集の手段 | テレビ、ニュースアプリ |
興味関心事項 | ビジネスニュース、スポーツニュース |
趣味・よく行くエリアやお店 | フットサル、神宮前のフットサル場によく行く |
ビジネス上の課題 | 解析データを有効に活用できない(売り上げ増加に繋げられていない) |
課題解決までの検討事項 | どういったデータをどのツールで取得すればよいのか、そのデータをどのように施策に落とし込むのか |
導入決定の段階 | 確実に効果が出てかつコストに見合う売り上げ増加が望めると判断した段階 |
導入決定に影響する要因 | 有効性(実績)、費用対効果 |
まずはユーザーデータを分析し、このようなペルソナを設計します。
より詳細なペルソナの説明、設計方法は別記事で執筆予定です。
顧客心理の定義と計測
次に、作成したペルソナを基に購入に至るまでの顧客心理の段階をそれぞれ想定します。例えば「どのようなシーンで商品が欲しくなるか」、「競合と比較された時に何を魅力と感じるか」などです。
顧客目線で、「Attention(商品やサービスの注意を引き認知)」→「Intereset(興味を持つ)」→「Desire(欲しいと思う)」→「Memory(記憶する)」→「Action(購入する)」それぞれを細かく分解した心理行動を設計します。
設計後、それぞれの段階にいるユーザーの人数を計測できる準備をします。
実務上においては、このそれぞれの段階をKPIとして設計し、事業目標を設計します。
実際の活用、作成例
実際に作成した事例を基に、活用方法をイメージしていただければと思います。
BtoB向けのパーチェスファネル作成例
まずはBtoB向け商材のパーチェスファネルです。先ほどご紹介したペルソナを基に、法人向けのweb商材を想定しております。
BtoC向けのパーチェスファネル作成例
次に、BtoC向けのパーチェスファネルのです。こちらはグルメアプリ開発の際に使用した、飲食店に予約するユーザーを想定しています。
分析・ボトルネックの発見
前段で作成して計測の準備をした各フェーズを基に、分析を行います。
計測をすると、以下のように各段階には何人のユーザーがいるのか、どの段階でどの程度のユーザーが離脱しているかを数字で可視化することが出来ます。
それぞれの段階の数字を見ていくことで、どこが購買に至るまでのボトルネックになっているのかを発見します。
マーケティング改善施策の展開
パーチェスファネルを使用したファネル分析結果を、マーケティングに使用する方法をご説明します。
先ほどペルソナを設計した後に抽出した顧客心理行動の段階別に分類し、それぞれの段階別に施策を打っていく必要があります。各段階ごとに使用できる施策の一覧をご紹介します。
各段階のマーケティング施策一覧
「認知」段階のユーザーへのマーケティング施策
認知段階においては、潜在顧客・見込み顧客に対して、商品・サービスをどのように知ってもらえるのかを考える必要があります。
- Web・SNS広告
- テレビCM
- 新聞・チラシ
- 展示会・イベント
- セミナー(商材ではなく顧客が知りたい情報について)
- オウンドメディア
認知段階のユーザーにおいては、いきなり商品の良さを訴求をするのではなく、自社サイトなどに呼び込むために、上記の手法などを使用してまだ商品・サービスを知らないユーザーに対して有益な情報を提供します。
また、ただ多くの人を集客するのではなく、見込み顧客を集める必要があるので、先ほど説明したペルソナを使用して、ペルソナと接触できるようなチャネルを使用してアプローチする必要があります。
「興味・関心」段階のユーザーへのマーケティング施策
商品・サービスを知ってもらい、興味・関心を持ってもらう、つまり育成(ナーチャリングと言います)をするフェーズです。
- サービス説明資料の提供
- アホワイトペーパーの提供
- 導入事例集の提供
- ウェブサイトのコンテンツ強化
- セミナー(自社商材人ついて)
- メルマガ
- 営業(IS)からのリーチ
このような方法でアプローチすべきですが、この時気を付けるべきなのは、ナーチャリングをしていくために顧客のコンタクト情報を取得することです。よく資料ダウンロードの際に連絡先情報を求められますよね。それもこのためです。
その他、私が開発したタグを入れるだけでCVRを高めるAIツールなども手法としてあります。
「比較・検討」段階のユーザーへのマーケティング施策
この段階に来ると、ユーザーは商品・サービスを購入しようか検討段階に入ります。
- リターゲティング広告
- デモ商品の提供
- 期間限定キャンペーン
- 営業(FS)からのアプローチ
このような手法を使って悩んでいるユーザーの後押しをします。
「購入」段階のユーザーへのマーケティング施策
購入を終えたユーザーに対する段階です。近年ではSaaS系サービスの対応もあり、多くのサービスがサブスクリプション化しています。
カスタマーサクセスという職種が有名になったように、契約後の顧客管理を徹底し、LTVを増加させることが重要になります。
パーチェスファネルとカスタマージャーニーの違い
ユーザーの購入までの流れを視覚化したツールとして「カスタマージャーニーマップ」も有名です。似たツールではありますが、違いはあるのでしょうか?
確かにどちらもユーザーの購買プロセスを表すツールという点は一緒ですが、カスタマージャーニーの方がより多くの情報が加わります。多くの情報というのは、「ユーザーの感情変化」です。
どういうことかというと、ユーザーをファネルの次の段階に引き上げるためには、ユーザーの心理状態を捉え、どのような感情変化を促すべきか、また、そのためにどのような施策を取るべきか、といった情報です。
カスタマージャーニーとパーチェスファネルの使い分け
カスタマージャーニーとパーチェスファネルの使い分けは以下の通りです。
- 全体の変化を見たい、分析したい場合はパーチェスファネル
- ファネルそれぞれの態度変容に対する施策を考えたい場合はカスタマージャーニー
カスタマージャーニーの実例
実際に私がグルメアプリを作成する際に作成したカスタマージャーニーをご紹介しますので、イメージを掴んでいただけますと幸いです。
カスタマージャーニーの詳しい作成方法は別途ご紹介します。
パーチェスファネルはもう古い?
ここまでパーチェスファネルについて紹介してきましたが、「パーチェスファネルはもう古い、限界だ」と言われることがあります。その理由をご説明します。
パーチェスファネルは画一的なモデル
AIDMAが提唱されたのはネットが発達する以前の話です。当時は単純なビジネスモデルが多かったため、ファネルには「一直線型」という特徴があります。どういうことかというと、全てのユーザーが「認知→興味・関心→比較・検討→購入」という直線的なプロセスを経るものだという前提があり、つまりユーザーを画一的なプロセスとしてみなす形です。
ユーザーの購買行動の多様化
しかし、現在のユーザーの行動は実に多様化・複雑化しています。例えばtoC向けの商材であれば、SNS上でフォローしているインフルエンサーが紹介した商品をSNS上の決済でそのまま購入すると言ったことも起きており、これは「比較・検討」などのプロセスを飛び越えています。
さらに前述したサブスクリプションモデルの台頭により、購入後に更にアップセルで購入をするなど、パーチェスファネルには収まらないプロセスも発生しています。
購入後の行動を追い切れない
サブスクリプションの例で紹介した通り、パーチェスファネルは「購入」がゴールとなっており、購入した後に再度購入する、という点が抜けてしまっているのです。
こうした時代背景とユーザーの変化を踏まえ、パーチェスファネルは古いと言われているのです。
新しい2つのマーケティングファネル
パーチェスファネルは限界と言われる背景もあり、最古のパーチェスファネルに加えて、今では以下の2つのマーケティングファネルが使われることもあります。それぞれご紹介します。
インフルエンスファネル
インフルエンスファネルは、購入後のフローを図式化したものです。
皆さんも目にする機会が昔と比べて増えたと感じているかと思いますが、インフルエンスファネルはクチコミサイトや、レビューサイト、SNSの発達から生まれたものです。こうしたものの発達により、消費者自身が情報を発信するようになったために作られたモデルです。
サブスクリプションの台頭も伴って、一度購入したユーザーがロイヤルカスタマー化(=ファン化)すると、継続的に購入をしてくれます。商品を購入して良かったと感じたユーザーは、SNS上などで商品情報を発信するようになります。そしてその情報に共感したユーザーが更にその情報を拡散するという流れになっています。このような流れをモデル化したものがインフルエンスファネルなのです。
また、パーチェスファネルはAIDMAという行動心理モデルから派生したファネルですが、インフルエンスファネルもまた、「AISAS(アイサス)」というAIDMAの次に作られたモデルの誕生に起因しています。
AISAS(アイサス)とは
AISASは、「Attention(認知・注意)→Interest(興味・関心)→Search(検索)→Action(行動)→Share(共有)」の頭文字を取った購買行動モデルです。
大きな特徴、AIDMAからの進化で言うと、検索(search)が加わったことと、共有(share)が加わったことが挙げられます。
インターネットの発展によって検索されることが増えたこと、SNSの台頭によってシェアされることが増えたことによって進化した消費者行動を表すモデルです。
ダブルファネル(アワーグラスファネル)
これまでご紹介した「パーチェスファネル」と「インフルエンスファネル」を組み合わせたものが「ダブルファネル(アワーグラスファネルとも呼ばれる)」です。
パーチェスファネルとインフルエンスファネルを組み合わせることで、発信・拡散までを重視した施策・分析をすることが可能になります。
ダブルファネルは「売ったらそれで終わり」ではなく、買ってもらった後にも手厚くフォローすることでその顧客をファンとして取り込み、ファンとなったユーザーが更に購入者を呼ぶというループを生み出すことが出来るのです。
こうした相乗効果を産むことからダブルファネルと呼ばれています。
どのマーケティングファネルを選ぶべきか
ここまでパーチェスファネルを中心にマーケティングファネルについてご紹介しましたが、ではどのマーケティングファネルを使えば良いのでしょうか?
どれを使えば良いかの正解はなく、それぞれのビジネス・状況に合わせたファネルを設計するべきなのです。
例えばBtoBの現場ではいまだに直線的であることが多いため、パーチェスファネルが最も有効、効率的だったりするのです。
事業会社・広告代理店両方で経験を積んだスキルを活かして広告運用の受託事業も行っております。
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