今回は、個人的マーケティングのバイブルである「たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング」の要約とレビューをご紹介します!
たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティングの要約
P&G、ロート製薬、ロクシタン、スマートニュースという名だたる企業でマーケター、あるいは経営者として成功を収めてきた著者が、そのマーケティングのノウハウを惜しげもなく公開しています。
たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティングの概要
マーケティングの組織は往々にして組織起点になりがちで、売上に繋がらない
大抵のアイデアが具体的な顧客がいない机上の空論のため、有効なアイデアにはなり得ない
顧客1人1人から手順を踏んでアイデアを考えれば質の高いアイデアが生まれる
例えば同僚50人に喜ばれるようなプレゼントよりも、特定の友人1人に喜ばれるプレゼントの方が具体的にイメージが湧く
筆者がスマニューやロクシタン、ロート製薬などの成功から確立した非属人的なフレームワーク=顧客起点マーケティング
顧客起点マーケティングのフレームワークとは、「顧客ピラミッド」「9セグマップ」「N1分析」
顧客起点マーケティング・・・1人の顧客から有効な打ち手を導き出し、対象とする顧客セグメントの人数や構成比の動きを見ながら投資の効果検証まで行うこと
N1分析・・・たった一人の顧客の意見を聞くことから、アイデアを発見する
顧客起点マーケティング全体の流れ
無作為に1人を抽出することは×
顧客全体の人数や構成比を把握=顧客ピラミッド(5セグマップ)
顧客ピラミッドにブランド選好度を加える=9セグマップ
行動データと心理データから各セグメントの顧客特性を分析=セグメント分析
特定の顧客セグメントから1人を抽出し、購買行動を左右する深層心理のニーズをインタビュー=N1分析
アイデアをコンセプトに変えて実施し、セグメントが狙い通りに動いたのか、セグメントの人数や構成比を確認し定量評価
顧客起点マーケティングにおけるアイデアとは
そもそもアイデアとは、独自性(既視感の無い)があり、便益(顧客に取ってのベネフィット)があるものを指す
コモディティは競合と差別化ができていない状態(差別化と誤解されがちな競合との比較優位性はここに属する)
ギミックはただ人目を引くだけの仕掛け
さらにアイデアは2つに分解される
プロダクトアイデア・・・商品やサービスそのものに独自の機能や特徴、具体的な便益がある、理想は独自性=便益の状態
コミュニケーションアイデア・・・商品やサービスを顧客に認知してもらうための手段で、便益とは広告などに触れること自体が楽しい、面白い、心地よいと感じること
プロダクトアイデアに便益・独自性が無いと、中長期的にはコミュニケーションアイデアだけで補うことは不可能
→プロダクトアイデアがコモディティの場合は、コミュニケーションアイデアで独自性を増幅させることが可能
独自性のあるプロダクトはすぐに模倣されるため、コミュニケーションアイデアが必要
→つまり早期の認知形成をすること
N1分析で重要なことは、購買行動を左右している根本的な理由を見つけること
→顧客自身も認識していないが、ブランドが自分にとって特別な便益をもたらしてくれると心理的に認識する1つに集約される
一方で1人を喜ばせて終わりでは無いため、他の人にも有効であるか定量的にテストをする必要がある
顧客ピラミッド
顧客を次の5つのセグメントに分類
- ロイヤル顧客
- 一般顧客
- 離反顧客
- 認知・未購買顧客
- 未認知顧客
次の3つの問いで分類可能で、低予算でもネット調査可能(BtoBではネット調査はしない場合が多い)
- そのブランドを知っているかどうか(認知、特定のアプリ名ではなく、そのカテゴリで知っているブランドを選択させる)
- これまでに買ったことがあるかどうか(購買)
- どのくらいの頻度で購入しているか(購買頻度、アプリなら使用頻度など)
こうした調査をターゲットとしている顧客層に実施(例.20~40代の女性)
売上を上げているのは上位2つのセグメント
→実購買データを基に、平均年間購買額を出してピラミッドの人数に掛けることでおよその売上が算出可能
下位3つのセグメントは売上に貢献しないことを踏まえて、全体に掛ける費用計画を立てる
→未購入者へのリタゲや、ロイヤル化の施策、マス広告などで分類
顧客ピラミッドを時系列で追うことで、各セグメントの顧客がどれだけ増えているかが分かる
顧客ピラミッド作成後、各セグメントの分析を進める
- 顧客の行動データ
- 行動の要因となっている心理データ
行動データ・・・POSデータ、会員カード情報、外部データベースの行動データ、アクセス解析情報など。顧客のメディア接触データや購買経路、競合ブランドの購買行動データは量的アンケートから取得することが出来る
心理データの取得は、まず量的データの取得
- ブランドの認知
- ブランド選好度(買いたい、使いたいと思っているか)
- 属性イメージ(形容詞や擬人的表現でどのような機能イメージや便益属性を感じているか)
- メディア接触(マスメディア、SNSなどのデジタルメディアなどの接触習慣や信頼度)
- 広告の認知経路(いつどこでどんなメディアを通じてブランド認知をしたのか、イメージを形成したのか)
行動データ、心理データを顧客データに加えることで、顧客セグメント間のギャップを分析できる
→顧客化の仮説を導くことができる
しかし、「テレビCMを見て好感を持った」などが挙がっても、本来は記憶化されていない無意識化にあるインサイトが本当の要因
→量的データの限界、N1分析の必要性
戦略としては大きく5つに分類される
- ロイヤル顧客のスーパーロイヤル化(単価、頻度の向上)
- 一般顧客のロイヤル化
- 離反顧客の復帰
- 認知・未購買顧客の顧客化
- 未認知顧客の顧客化
その後カスタマージャーニーに基づいて5W1Hでマーケティングプランを立てる
※N1分析から明確なアイデアがあることが前提
オーバーラップ分析・・・作成時に競合も調査対象に入れているので、競合ブランドも同様の調査を実行すると、自社と競合に対する強みと弱みが見えてくる
顧客ピラミッドを人数ベースでマトリクスを作成することでどのように併用されているかが分かる(どのように使い分けているのか、なぜ使い分けているのかをN1分析より)
N1分析
N1分析で重要なことは、購買行動を左右している根本的な理由を見つけること
→顧客自身も認識していないが、ブランドが自分にとって特別な便益をもたらしてくれると心理的に認識する1つに集約される
一方で1人を喜ばせて終わりでは無いため、他の人にも有効であるか定量的にテストをする必要がある
架空の人物ではなく実際の顧客個人の生活態度、習慣、購買行動からカスタマージャーニーを理解し、「いつ、どのようなきっかけでブランドを知ったのか/買ったのか/ロイヤル化したのか」を知る
ロイヤル/一般顧客/離反顧客への質問例としては、以下など
- 認知・使用意向・を持った時系列のきっかけ
- 使用の実態・満足度、競合への認識や好き嫌いな点
未購買や未認知は、
- プロダクトアイデアやコミュニケーションアイデア自体に魅力を感じてもらえていないか
- 単に伝わっていないだけなのか
- ロイヤル顧客が評価している商品の良さが伝わっているかなど
→特にロイヤル顧客へのカスタマージャーニーなどは有効
ロイヤル顧客から想像していなかった特殊なきっかけや事実を見つけられれば、具体的な便益と組み合わせてアイデア化し、量的なコンセプトテストを行う
コンセプト・・・「独自性と便益」+「価格と商品・サービス情報」
コンセプトテスト・・・各セグメントに対してコンセプトへの購買意向、独自性を感じるかを5段階評価
コンセプトテストは、顧客ピラミッド作成時の3つの質問に加えて、各セグメントがどのくらい反応したかによってポテンシャルが判断出来ます
9セグマップ(顧客ピラミッドの応用編)
ブランド選好度・・・好き嫌いではなく、次回購買意向
→ロイヤル層にも積極ロイヤル層と消極ロイヤル層があり、消極ロイヤル層は競合に奪われる可能性がある
9セグマップ・・・顧客ピラミッドの3つの質問に1つの質問を追加し、上位4つの層をそれぞれ2分割したもの。質問とは具体的には「次回に購入/使用したいブランド」
左から右への移行・・・顧客、売上の増加
下から上への移行・・・ブランディングの効果(ブランディングはプロダクトアイデアと相関のあるイメージ属性を付与することが前提。また、イノベーター理論に則り、ターゲット顧客の50%以上の認知になるまではプロダクトアイデアでコンバージョンに徹するべき)
顧客ピラミッド同様にコンセプトテストや戦略の実施の評価に使用出来るが、下から上への移動も確認できなければ短期的・一時的な売上しか上げられない
各層に対してのデジタルマーケティングの獲得単価は、以下のようになる
たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティングのレビュー
私も長年マーケターとしてマーケティングに携わっていたが、モヤっとしていたマーケティングの全体像をきちっと定義してくれた感じがします。
著者が文中でも述べていますが、販促(コンバージョン)VSブランディングという対立というのはマーケターというのは誰でも一度は通る道ですし、特にデジタルマーケティングにおいては未認知層をどのように獲得するかという視点は半ば諦められています。(簡単に言うと顕在層をいかに効率よく刈り取るか)
上記の状況に対して、これまで疑問だったブランディングの定量的な評価方法を知れた点がまず良かったです。
また、未認知層をどのように定義して、獲得に至るかという評価方法も載っていましたので、大局感的なマーケティングを身に付けたい方にはぜひおすすめです。
余談ですが、私が学生起業やスタートアップでの業務経験もあることから起業周りの知識もあるのですが、N1の課題を深堀りして、徹底的に満たしてあげるという手法・思想にかなり通ずるものがありました。
実体験としてN1分析の有効性を知っておりますので、かなり腹落ちかんのあるフレームワークを知ることが出来ました。
全くのマーケティング未経験の方ではなく、ある程度現場経験のある方の方がしっくり来る内容かと思います。