今回は、商品開発における名著、「ヒット商品開発―MIPパワーの秘密」の要約とレビューをご紹介します。
直接商品開発を行う方以外にも、マーケティングにもいかせる内容が豊富なので、ぜひご覧ください!
MIPとは
多くの経営者や開発マンは成功商品を開発するやり方や考え方を採用出来ていない。
成功する商品開発の方法は、「MIP(Market Initiating Product:新市場創造型商品)」である。
MIPとは具体的には10年以上続く市場を最初に創造した商品のこと。
例えばこうした事例がある。
新商品開発における課題
毎年コンスタントに利益が得られること =>
”長期間シェアNo.1を保つ商品を開発すること”が近道 =>
成功率の向上を目指すこと、つまり失敗すると思われる商品は販売しない「優良少子化戦略」を取ること =>
コンスタントに成功を達成できる方法を持つ事
自動車からガムまで223市場を調べてみたところ、以下の差があった。
- MIPは53.8%が10年以上シェアNo.1
- MIPが創造した市場への後発商品がシェアNo.1になれる確率は0.5%
新市場を作るため、余計コストがかかるイメージがあるが、PRなどは不要になる為コストは大幅に削減出来る。
MIPが有効な理由
「1/2効果」によることが大きい。
長期間シェアno1を保っているMIPは1/2以上の確率で最終選択される。
ex)「ヤマト運輸 宅急便」、「キューピー マヨネーズ」
逆に、シャープの電子レンジや資生堂のシャンプーは長期間シェアを保てていなかった
1/2効果をもたらす要因
発売初期の要因
空腹効果・・・商品力(コンセプトとパフォーマンス)があるものが、消費者のニーズを満たすものがない、つまり空腹の状態で現れたため
その後の長期間の要因
トロッコ効果(以下3つの要素から成る)
- ベストセラー効果・・・特に基準や決め手がない場合は1番よく売れている商品を選ぶ(70%)
- カテゴリー代表効果・・・最初に発売されてその分野の代表的イメージがあると、消費者はそうした商品に信頼を持ちやすい(60〜80%)
- 商品パフォーマンスの要因・・・商品に満足すると続けて買うことが多く(88%)、他の商品よりも好感が持てる(87%)
MIPでもシェアNO1を長期間保てない理由
1/2は10年未満にシェアNo1の座を奪われる、その理由は以下の3つ。
- 追いかけ効果・・・後発商品の方が品質や性能が優れていると考えられるカテゴリー
- 類似市場優位効果・・・類似市場の王者に参入される
- 大砲による逆転効果・・・圧倒的な物量で大手の後発商品に追われる(≒参入する市場選定が大切)
MIP開発の大枠の流れ
大枠の流れは以下の通り。
1.「未充足の強い生活ニーズ」を明らかにする
潜在している「どんな生活ニーズに応えたら良いか」を知る消費者調査からスタートする。
2.潜在ニーズを発見して「生活上の問題」を解決する
潜在ニーズとは消費者の気付いていないニーズなので調査をしてもわからない、そのためグループダイナミックインタビュー法で未充足の強いニーズを想像する。
3.MIPコンセプトを作成する
MIP開発の事例
「サンスター トニックシャンプー」
未充足の強い生活ニーズ→女性は「髪を優しく洗いたい」に対して、GDIを実施すると、男性は「気分もスッキリ頭を洗いたい」だと分かった。つまり石鹸や普通のシャンプーで洗えるが、気分までスッキリさせるのは無理という生活上のニーズが分かった。
商品コンセプトの開発→以下のコンセプト開発の公式を用いて開発。
商品コンセプトの受容性評価→20〜50代男性×2=8グループを対象にGDI法で高い評価。
商品パフォーマンス開発→メントールの配合量にかなり手間取る。
商品パフォーマンスの受容性評価→トラブルの有無や、受容性を見るために実際に社員や、外部の方にGDIを実施し高い評価。
これらの結果、何十年のシェアNo1を維持することに成功。
この例の他にも、例えばカビキラーは「風呂の手入れに関するGDI」から、テンプルでは「台所周りの不満に関するGDI」を実施し生活上の課題を発見し、MIPの開発に成功した。
MIP成功の条件
【商品開発上の条件】
1.商品力を高める
商品力は商品コンセプト(C)と商品パフォーマンス(P)によって構成され、C/Pバランスが良いと、Cがニーズに合致すると初回購入が発生し、Pに満足すると再購入や継続使用、口コミが発生する。
2.未充足の強いニーズに答える
3.参入市場に配慮する
MIPがシェアを奪われる理由のうち2つは避ける事が出来る。
つまり、追いかけ効果の高いカテゴリーを避け、類似市場優位効果を予め避ける。
4.新カテゴリー名を妥当に決める
初めてのカテゴリーであるため、その商品が何であるかを明確に伝える必要がある
【発売後の条件】
1.早期のブランドイメージの確立(N1マーケティングが有用)
類似市場優位効果や、大砲による逆転効果を生ないためにも、広告・PR・販促活動を通じて早期にカテゴリー代表イメージを確立することが重要になる。
2.早期の配荷達成
消費者に購入してもらうためには、求める消費者に買われるよう店に配荷されることが重要(無店舗の場合は別)
【バックアップの条件】
1.MIP開発者の特徴
以下の要素を1つでも多く持つ人がリーダーになるべき
- 「人の行かない道のり」を開拓していくことを喜びとする人
- 「まだ誰もやっていないからやりたい」と思える人
- リスクを避けるより、リスクに挑戦できる人
- 追随するより追随されることを好む人
- 目的が決まればそれを達成することを優先し、手段を自主的に変えられるもしくは試行錯誤できる人
- 作れるものを作る人ではなく、消費者の無理難題の未充足の強い生活ニーズに答えるものを作りたいと思える人
- 人々の生活向上や生活変化をもたらすことに至上の喜びを見出せる人
2.トップマネジメントのサポート
失敗を恐れずに挑戦するためには精神的にトップマネジメントのサポートが重要
MIPを成功させる理論
「C/Pバランス理論」
- 商品コンセプト(C)・・・買う前に欲しいと思わせる力
- 商品パフォーマンス(P)・・・買った後に買って良かったと思わせる力
この2つが揃っていないと売れ続けていかない。
「未充足ニーズ理論」
消費者の初回購入を動機付けるニーズは何か。
後発商品は立派に消費者ニーズに応えているのに先発商品と比べるとなぜ売れ行きが悪いのか。
消費者ニーズとは、「消費者自ら満足を得るために行動を駆り立てる動因機能及び状態である」
消費者ニーズの深層には普遍的な「基本ニーズ(人生ニーズ)」があり、それを満たすために「行為ニーズ(生活ニーズ)」が発生し、そのニーズが商品に触れると欲しいという「所有ニーズ(商品ニーズ)」を発生させる。
つまり、欲しい(商品ニーズ)と思った時に背景には行為ニーズ(生活ニーズ)があり、その背後には基本ニーズ(人生ニーズ)があり、互いに目的-手段の関係にある。
この行為ニーズに対して、「強く」「未充足」である必要がある。(強いが未充足でない場合は既存品で間に合っているし、弱いが未充足は珍しいだけなど)
Doニーズに対して刺しにいく商品がMIPである。
「新市場創造理論」
MIPは「生活上の問題」を解決して売れ続ける。
ほとんどの商品が既存の「商品上の問題」を解決する形になっている。
ex)
- タンポン – 経血のために運動や仕事が制約されるし気分が悪い
- ポラロイド – 撮った写真がすぐに見られない
- 修正液 – 公式文書は一箇所でも間違えるとまた作り直すしかない
- テレビリモコン – チャンネルを変えるたびに席を立つのが面倒
- 紙おむつ – 毎日何回もおしめ洗いが大変
つまり、生活ニーズが現在は商品によってではなく生活行為によって充足されいる場合がチャンスである。(商品による場合は後発商品になってしまう)
その他、「商品コンセプト創造理論」、「売上理論」、「デルタ理論」、「問題肯定理論(メラキアの発想)」などがある。
MIP開発を特徴付ける4つのオリジナル手法
【GDI法】
言葉のやりとりを通じて見えない市場ニーズを掘り起こす化学的な深層心理調査。
グループダイナミックインタビュー法の略で、消費者が自分の潜在ニーズに気付きやすい状況を提供し、自身が自由に語れる場を設定することによって、潜在ニーズを仮説的に見つけ出す。
GDIの定義‥
ある特定の目的のために用意された話題を、その目的に沿って集められた少人数(通常5〜6人)のグループで話し合う過程において、熟練した司会者のコントロール技術によって、集団の利点を活用してグループメンバーが互いに影響し合う場面を作り、話し合いを促進し、維持し、主として非構成的アプローチによって得られた反応をグループ属性ごとに結合し、仮説の抽出や検証など、調査課題に回答を与えるためにその目的に従って観察、分析する、言葉を通じて気持ちを知る方法
他の類似手法では質問ー回答という流れが一般的なのに対し、出席者同士で話題に対して話してもらうというスタイル。
話題は特定の生活領域を中心とする。
また、司会者が途中でなぜと入るのはあまり良くない、あくまで出席者同士の会話がメイン。
発言内容を以下2つの手法によって分析する。
- 因果対立的関係分析法‥得られた情報を因果という関係と対立という関係のみを用いて分類。消費者ニーズの深層構造の分析以外の全てに適用
- 上位下位関係分析法‥消費者ニーズの深層構造の分析のための手法。haveニーズ・doニーズ・beニーズの層構造を分析する
【キーニーズ法】
アイデアとベネフィットの独創プロセスにより魅力的なMIPコンセプトを開発する商品コンセプトの発想法。
キーニーズ法は以下のようなコンセプト開発の公式をシステマティックに開発するための手法である。
キーニーズ法は2つのプロセスからなる。
・生活ニーズに応えるベネフィットを産む
これはCAS分析により生まれる。
・ベネフィットをもたらす商品アイデアを産む
メラクロスやAHAの華などのアイデア発想法から生まれる。
具体的にはニーズから入るパターンと、シーズ(技術)から入る2パターンがある。
【CCS法】
MIPコンセプトを魅力的にパッケージと広告に繋げ、広告費の無駄を省く表現コンセプト発想法。
キーニーズ法で開発され、CST分析によって受容性が確認された魅力的な商品コンセプトはCCSによって商品コンセプト化される。
それぞれの関係性は以下の通り。
具体的なプロセスは以下のCCSシートに記載し、最終アウトプットは「手作りパッケージ」と「手作り広告」である。
MIP開発プロセス
全体像は以下の通り。
【準備プロセス】
主に以下の定義をする
- ドメイン・・・女性の美を追求する商品(ならなんでもOK)という分野などで、自社の強みが活かせて消費者の未充足の強い生活ニーズ領域による事が理想
- 判断基準・・・主に成功の定義を定める
- (年間)開発予算・・・どのくらいの予算を充てられるのか
【商品コンセプト開発】
1.商品コンセプトの開発:キーニーズ法
2.商品コンセプトの評価・改良
商品コンセプトは消費者の評価を受けて初めて価値のあるものになる。
まずは社内にて以下のチェックリストをチェック。
- ベネフィットは未充足の強い生活ニーズに応えているか
- ベネフィットは生活上の課題を解決しているか
- アイデアはベネフィットを与える最低限の全てが盛り込まれているか
- 新カテゴリー名は従来無い商品というイメージを与えるか、その商品が何であり何の目的で使う商品かわかるか
次に、消費者によるコンセプトスクリーニングテスト(CST)で受容性評価。
目的:どのような属性の消費者がどの程度受容するのかを明らかにし、明らかに没にするべきか、改良点の発見などを行う。
方法:
GDI法による予備的スクリーニングテストで質的に評価・改良
CSTでどの属性にどれくらいかを調査する。(そのため広めに当てることが重要)
テストの基本項目は以下の点。(事前に判断基準を決めておく)
- 使用意向(5ポイントスケール)
- 使用意向の理由(オープンアンサー)
- 特徴項目の魅力度(マルチアンサー)
- 特徴項目の不信度(マルチアンサー)
- 価格提示後の購入意向(5ポイントスケール)
これらの数値から使用意向の高い属性層を特定し、価格妥当性を購入意向と使用意向から算出し、年間売上をフェルミ推定し、商品化に進めるかどうかを判断する。
また、ペルソナを設計し、そのニーズを強く持つ人の数は十分に多いかも確認する。
3.商品コンセプトのストック
計画的にコンセプトをストックしておくことで、経営計画上いつでも商品化できるようにしておく事が重要。
【開発プロジェクトの可否判断】
商品コンセプトを以下のどれかに結論付ける。
- 速やかに商品パフォーマンス開発に着手する
- 商品コンセプトを改良して再提案する
- コンセプトを達成する技術開発に着手する
- 基準(ポリシー、ドメイン、成功基準)を満たしておらず没にする
- 次年度以降のためにストックする
- 開発、スタッフ、予算、スケジュールについての結論
- 課題についての解決策の結論
審議項目は以下の通り。
- 開発ポリシーに合致するか
- ドメインの範疇に入っているか
- ブランド
- 成功基準に合致するか
- 開発チーム、スタッフの人選が妥当か
- 開発スケジュール案は妥当か
- 開発予算案は妥当か
- 課題についての解決案
【開発上の課題解決】
1.商品パフォーマンス開発と評価
(1)設計品質作り
以下の手順。
- CSTの結果の分析から誰をメインターゲットにするか確認
- CSTの結果の分析から、何が魅力で何が信じられないのかを知る
- 価格妥当性のデータから、価格の目安とコストの目安を付ける
- その上で商品が備えるべき品質特性を必要と十分条件に分けて列記する
- 特性を吟味した上でそれぞれを達成する手段アイデアを明記する
- これらの内容を元に技術者に委ねる
(2)商品パフォーマンステスト
- 社内パネル(10〜50人)を対象に使用テスト
- 改善点があれば改良する
- 改良点が改良されたと判断された段階で再度社内パネルにテスト
- ほぼ設計品質通りの商品パフォーマンスに至ったと判断されたら消費者にGDIを行う。その結果から改良点を改良の上、対象者を統計処理に耐えうるだけのサンプルサイズにて量的パフォーマンステストを行う
(3)C / Pテスト
初回購入と再購入のシミュレーションを行い、売上推計を行うために実施。
コンセプトテストでは物理的にその商品を購入しうる条件を備えた人(例えば入れ歯など)、パフォーマンステストは使用意向を示した人を対象とする。
具体的なテスト項目は以下の通り。
2.ブランドネーム、パッケージ、広告の開発と評価
パフォーマンス開発と並行して行われることが望ましい。
(1)表現コンセプト開発
- CSTの分析結果からメインターゲット、新カテゴリー名、応えるニーズを決める
- USPを決める(メイン主張)
- USPをイメージ面で補強する(トンマナを決める)
- 潜在ニーズを目覚めさせる意識喚起メッセージを決める
- 主訴求点のプライオリティを決める
- USPを確信させるためのサポート情報を決める
- これらを元にパッケージと広告を作成
(2)表現コンセプトテスト
消費者にとってどのコンセプトが最も魅力的か判別し、改良点を検討する。
- 表現コンセプト化技法を使って作成した広告を素材とする
- 複数案作成し比較調査
- 表現コンセプトの項目中、トンマナ・USP・意識喚起・サポート農地、確信が持てるものについて複数作成し比較する
- 調査項目は、CSTの基本項目に準じて、商品コンセプトとの合致度、新カテゴリー名が今までに無い商品と伝わるか・何で何の目的で使うかが伝わるか
- 調査方法はGDI
- GDIの反応を分析し、どの案が最もターゲットに魅力的かを結論付ける
(3)ブランドネーム開発と評価
消費者に識別されやすく、かつ新カテゴリーの代表イメージを得やすくするための銘柄名を決める。
- 表現コンセプト作成時に決め、表現コンセプトテストで確認された新カテゴリー名とのイメージ的な結び付きが強い名前を考える
- ネーミングテストでカテゴリー連想価が最も高いものを選抜
(4)パッケージ開発と評価
USPを中心とした訴求内容がすぐに伝わるように。
- 表現コンセプトで決めたUSP・意識喚起・サポート・新カテゴリー名・ブランドネームは必ず表記する
- 表現コンセプトで定めたトンマナから色使い、ロゴなどを工夫
- パッケージテストでUSP・新カテゴリー名が最も伝わり、購入喚起力が強いことを優先としたテストをする
(5)広告開発と評価
カテゴリー代表イメージが沸くように。
※基本的にはパッケージ開発と同じ流れ
3.売り方開発と評価
CSTの情報さえあればすぐに売り方は検討出来る。
- CSTの情報をベースに、推計された売上を達成しうるアイデアをブレスト
- 各アイデアのメリデメを抽出し、それらを合成し売り方戦略に落とし込む
【テストマーケティング移行可否・生産・販売可否判断】
基本的には特定のエリアで成功基準を設けてテストマーケティングを実施する。
購入率、購入者の動機・満足度・再購入実態についての質・量的調査等から売上・利益を含めた総合的結論付けを行う。
問題がなければ全国展開に移る。
ヒット商品開発―MIPパワーの秘密のレビュー
商品開発の名著と言われる梅澤先生の「ヒット商品開発―MIPパワーの秘密」ですが、近代的なスタートアップの定石にかなり近しいものを感じました。
いつの時代も事業を作るのは消費者のニーズ起点であるということは変わらない普遍的なものを感じました。起業の定石はありふれていますが、具体的な手法をここまで解説しているメディアは無いのではないでしょうか?
ただし例えばパッケージの考え方等はやはり少し時代を感じますし、例えば店舗への展開が前提となっています。
ここら辺は現代の消費者行動に合わせて解釈を変えていく必要はありそうです。例えば今では商品販売のメインストリームはD2C、つまりオンラインでダイレクトに顧客に繋がることで、そこには機能的価値はあまり押し出しません。
基本的には全体感の説明がメインで、詳細はそれぞれの手法を解説した本への誘導になっているため、全体感を理解し自社に必要な部分を別の本で詰めていく形が良いのかなと感じましたが、ご興味ある方はぜひ。